| 自分が上下どちらを向いているのか判断がつかない。錆びた鉄の味で口の中が一杯だ。どうやら頭を殴られたらしいが・・・敵襲じゃない。隊員連中の声がしやがる。
 「セラスさん、この雨はじき止んで日が差すそうです。
 急いで屋敷内へ退避してください」
 「わ、わかりましたっ!・・・あのぉ〜・・・隊長が・・・」
 
 「ああ、大した事ありませんよ。
 あのまま貴女に殴られるよりはダメージも軽いでしょう」
 
 駆け出す軽い足音と、薄い笑い声が頭に響く。
 ゆっくり起き上がり悪態をついた
 
 「畜生っ!めまいが止まんねぇぞ・・・本気でやったな野郎」
 
 「いくら賭けたんです隊長。すっぱり諦めませんか?」
 「あぁ?なんだよいきなり」
 
 「なんかねぇ、セラスさん見てたら、貴方にハシタ金目当てで弄ばれるには・・・擦れてない素人の娘には酷ですよ」
 「お前らだって賭けてただろう?何を今更。それに俺は金なんか賭けてねぇ!損得抜き、本気も本気だ、邪魔すんな」
 
 「・・・物好きにも程があんだろ隊長」
 「うるせぇよ」
 「人間じゃねぇんだぞ」
 「黙れよ。俺はいいんだよ」
 
 隊員連中が呆れた様な微妙な顔してやがる。笑い出す寸前なのは確かだ。
 
 「そういう事なら隊長、上着取りに行ったらどうですか?」
 「上着?」
 
 そうか、嬢ちゃんそのまま持っていっちまったのか。
 
 
 ・・・・
 
 「あーあ、あっさり走っていきやがったか。どう思うよ?」
 「確かにイカレたな、正気じゃねぇや。」
 
 「まさかヤラれっちまうんじゃ?」
 「危ないねぇ。」
 
 「まったくだ。屋敷の中に<あの旦那>が控えてるっての完璧に忘れてるぜ。」
 
 「おいおい皆そっちかよ?誰か隊長の肩持てよ。」
 
 「無理言うな。
 まぁ逃げ足の確かさくらいは褒めとこうか」
 
 
 
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